RESEARCH
行動と繁殖から、社会へ。
24 時間ビデオ観察と泥臭い野外調査の往復で、メダカの繁殖戦略と社会関係を追っています。
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目次
MAIN — 進行中の主軸
CORE RESEARCH
メダカの繁殖戦略
「精子は有限である」という当たり前で見過ごされてきた制約のもとで、オスとメスは何をどう選んでいるのか。実験室と野外を往復しながら追っています。
水槽実験 — 精子配分と性的対立
オスがメスの質や精子競争のレベルに応じて、1 回の配偶あたりの射精量を調節する繁殖戦略を「精子配分戦略 (sperm allocation)」と呼びます。ミナミメダカをモデルに、体外受精をする魚類の精子配分戦略を行動生態学の視点から研究しています。
これまでに、オスはライバルオスの存在に応じて射精量を巧妙に調節すること、連続して産卵を続けると精子の数だけでなく泳ぐ速度も低下することを示してきました。今後は、メダカの利点を活かした生理学・遺伝学アプローチや、メダカ以外の魚種での検証実験を進めて、「有限な精子」という制約がもたらす生き様を解明したいと考えています。

研究資金: 科研費 研究活動スタート支援 (2022-2025)「魚類の射精量の新規定量法の開発と繁殖戦略の異なる雄の精子配分戦略の解明」(代表) / 科研費 基盤研究(C) (2024-2027)「メダカの配偶行動における雌雄の化学コミュニケーション」(分担、代表: 古屋康則)
関連プレスリリース: 連続産卵で精子の泳ぐ速さが約 2 割低下 (2026) / オスは 1 日 19 回産卵できるが受精率は激減 (2025) / ライバルオスの行動を把握して射精量を調節 (2023)
野外調査 — 実験室から野生のメダカへ
野生での生態、特に繁殖生態の解明は、学術的にも保全の観点からも重要です。実験室で観察した現象が野生でも成立するとは限らず、誤った解釈や保全提言につながるリスクがあります。メダカは 1999 年に絶滅危惧 II 類に指定された一方で、世界中の実験室で研究されている代表的なモデル生物。それでいて、野生での生態学的知見は驚くほど限られていました。
2023 年度から、メダカの繁殖期の特定と繁殖行動の解明を目的とした野外調査を開始。岐阜の小川で深夜の野生メダカをビデオ撮影することで、これまで「夜明け前後 1 時間」と考えられていた繁殖開始時刻が、実は深夜 0 時頃から始まることを示しました。さらに、半野外水槽と実験室の比較から、環境による繁殖タイミングのズレも明らかにしています。

研究資金: 公益財団法人クリタ水・環境科学振興財団 萌芽的研究(b) (2025-2026)「メダカの求愛・繁殖行動における視覚・嗅覚・聴覚シグナルの機能解明」(代表) / 大阪公立大学 戦略的研究推進事業 若手研究者支援 (2025-2026)「野外での長期行動観察と環境DNAから紐解く野生メダカの繁殖生態」(代表) / 河川財団 河川基金 (2025-2026)「人工光がメダカの産卵に及ぼす影響評価」(代表) / 過去: クリタ水・環境科学振興財団 (2024-2025), 東京動物園協会野生生物保全基金 (2023, 2024), 笹川科学研究助成 (2023, 2024) ほか
関連プレスリリース: 野外環境のメダカは実験室より約 3.5 時間早く排卵 (2026) / 実験室と野外で繁殖行動開始に 3〜4 時間のズレ (2025) / 半野外水槽でもメダカの繁殖は午前 1 時から始まる (2025) / 野生メダカは夜明けではなく深夜に産卵を開始 (2025)
NEXT — 次のフェーズ
ONGOING PROJECT
複雑な社会関係 — 誰と競争し、誰と協調するか
これまでの精子配分・夜間繁殖の発見を踏まえて、メダカ間の「個体識別」と「群れ・なわばり形成」を解明する次のフェーズに移っています。
個体識別 — 親愛なる敵 (Dear Enemy) 効果
多くの動物が、隣にいるなじみのある個体と新参の個体を区別して扱うことが知られています(親愛なる敵効果)。メダカで同様の能力があるのか、隣接水槽の 2 個体に馴致期間を設けた上で、個体交換実験で検証する方向で計画を進めています。
群れの形成と社会順位
4 個体・8 個体の小規模な群れを観察し、社会順位の形成、なわばり、群れ同士の統合過程を追います。DeepLabCut によるマルチアニマル追跡を組み合わせて、相互作用の頻度や空間配置を定量する計画です。
本テーマは 科研費若手研究 (2025-2028)「メダカをモデルに解き明かす動物における複雑な社会関係の形成過程」 として進行中です。
METHODS — 使っている技術
METHODS & TOOLS
手法・技術
「実験室と野外をつなぐ」ために、24 時間連続撮影・自動追跡・生理組織観察・統計モデリングを組み合わせています。
24 時間ビデオ観察
赤外線カメラで深夜のメダカを撮影し、繁殖開始時刻・求愛頻度・産卵回数を網羅的に解析します。実験室・半野外水槽・野外の小川という 3 環境で同じプロトコルを使うことで、環境差の影響を切り分けています。
DeepLabCut による自動行動追跡
個体の姿勢・移動を機械学習で自動追跡し、人手では見落としがちな微細な行動変化や個体間の相互作用を定量します。マルチアニマル DLC で 4-8 個体の同時追跡にも取り組んでいます。
卵母細胞ステージ分析
メスの卵巣を顕微鏡で観察し、卵母細胞のステージから直近の排卵時刻を推定する手法を確立しました。1 時間ごとに 144 匹のメスを解剖した地道な作業によって、野外環境と実験室で排卵タイミングが約 3.5 時間ずれることを示しました。
統計
反復測定・水槽内擬似反復・兄弟個体など、生物データに不可避な階層構造を一般化線形混合モデル (GLMM) などでモデル化。
COLLABORATIVE — 協力で関わっている研究
COLLABORATIVE WORK
共生関係の生態 — エビハゼ・クマノミ
エビハゼ共生の相互給餌
エビとハゼの共生は、単純な「見張り — 巣穴の提供」だけではなく、ハゼは自身の糞をエビに、エビは溝掘りで底生生物をハゼに提供する「相互給餌」という別の側面があることを、動物社会学研究室が世界に先駆けて明らかにしてきました。僕は潜水できませんが、現地でヤビーポンプや調査の補助、統計解析を担当しています。

クマノミとイソギンチャクの関係
クマノミが宿主のイソギンチャクに「給餌」するという、これまであまり議論されてこなかった行動に着目し、給餌がイソギンチャクの成長に寄与していることを検討しています。また、クマノミは一般的に一夫一妻とされていますが、一夫多妻や一妻多夫といった別の婚姻形態も報告されており、これがどう生じるかにも注目しています。統計解析を担当しています。

ROOTS — 自分の原点と継続協力
YAKUSHIMA
屋久島での調査
NPO 法人「屋久島いきもの調査隊」が主催するヤクザル調査の主要メンバーとして、2012-2022 年の野外調査に参加しました。屋久島の生物多様性の学術研究とその成果の普及を目的とした調査で、今、僕が研究を続けているのは、この経験が大きく影響しています。
調査での貢献は複数の論文にまとまっています。Hanya et al. 2019, Ecological Research ではヒルの体内に残る動物 DNA (iDNA) からヒルが吸血している生物を明らかにし、カメラトラップによる哺乳類組成と比較しました。Hanya et al. 2023, Forest Ecology and Management では 2000-2019 年の 20 年間データから、原生林・天然更新林・植林地の時間変化がニホンザルに与える影響を解析し、保全策を提案しました。
現役のメンバーではありませんが、研究協力は継続中です。Hanya et al. 2026, Ecological Research では、ハエとヒルから採取した iDNA で脊椎動物の多様性を検出する手法を発展させた共著論文が公開されました。
MUSEUM
収蔵庫の整理・生物相調査
岐阜県美濃加茂市民ミュージアムでの適切な標本保管体制の構築のお手伝いをしました。具体的には、館内に保管されていた標本の現状を確認し、未登録の液浸標本を整理、魚類の収蔵標本の目録を作成しました。収蔵標本と現在の河川の魚類相との比較を目的として、美濃加茂市周辺の河川での魚類相調査も実施しています。これらの成果は博物館の紀要にまとめ、特別展を通じて市民に一般公開しました。

PUBLICATIONS
RELATED PAPERS
関連論文リスト
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